konpe's 夜の仕事記

民間セクター開発、BoP、Clean Tech

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問いと答え:ベルリンにて

ドイツのベルリンに来ています。

コソボのミトロヴィッツァとかマケドニアのスコピエに限らず、 バルカンや東欧には民族宗教思想で分断された街というのが沢山あるけれど、無事統合された街、というのはあまり聞かない(Frozen conflictというのは多くて、ミトロヴィツァがそうならないために今の仕事をしているともいえる)。 ベルリンの分断はぜんぜん事情が違うとはいえ、統合されてこうも繁栄している街がここにある、というのはたいへん励みになる。

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友達がだれもいない街を旅するのは、考えてみたらとても久しぶりだ。こないだのブルガリアの時みたいに案内してもらいつつ話を聞き、 国・地域の歴史と街の歴史と個人の歴史が重なり合う面白さを知ってしまうと、 どうもガイドブックなんかを買って既定のコース巡りをする旅には興味が薄れてしまう(それはそれで、 観光業界の努力と観光客の反応が相俟って街が変化してきた様とか、Lonely Planetと地球の歩き方の大きなズレとか、 そういうのが面白い場合もあるが。とくに途上国の場合は観光開発に示唆が得られることもある)。

なので、今回はアポが入っている時間帯以外はなにも計画を立てず、なんとなく目立つランドマークをみながら歩き回って、 約束の時間が近づいたらタクシーに乗ってしまい、そのあとはそこからまた適当に歩く、という動き方をしていた。

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ここはモスクワなんですか、上海なんですか、それともサラエボですか、みたいな不思議な風景。

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あーっ。MIT! 微妙に違うけどすごいMITっぽい! ひとりで思わず興奮。つい3ヶ月前までそこにいたのに、 懐かしくて泣きそうになる。

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ベルリン工科大。ひー、懐かしいよー。(←まだ言ってる)

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世界最大の消費者エレクトロニクス展、IFAがちょうどベルリンで開催中。 メーカーが巨大流通に利幅をほとんど吸われてしまう北米市場と違って、 国毎のマーケティングをきめ細かくやればちゃんとお金を払ってもらえる欧州市場では、 こういうイベントの一次情報が媒体とか店頭展示に波及して、けっこう効くのだよなあ、と、昔の仕事をちょっと思い出す。 最大の展示スペースを競うのは、やはりというか、ソニー、パナソニック、サムソンだった。

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ちょっとクリエイティブな白物屋(芋洗い洗濯機とか)だと思っていたハイアールも、 いつのまにか黒物スペースで幅を利かせていたりする。

おもしろかったのは、中国、韓国勢が展示スペースの洗練度とか品物の質とかではもう欧州勢とほぼ互角に見える一方で、 日本勢は単なる製品の展示じゃなく、けっこう力を入れてライフスタイルみたいな上位の価値を訴求しようとしていたところ。 例えばソニーのスペースは、人が商品の前を歩いて通り過ぎる普通の設計ではなくて、 みんなが集まって地べたに座り込むのに心地よい作りになっている。映像と音響で四方を囲み、 真ん中のステージでなんだか有名らしいミュージシャンが歌ってたりして、 イベントの合間には巨大座り込みスペースに点在してる商品の前でお客さんが遊ぶ、というしくみ。 集客数も滞在時間もどこのブースよりも明らかに突出していて、 しかも配られているソニーのロゴ入りの大きな紙袋をみんな会場中で持ち歩くので露出も高い。これは立派だなあ、誰が考えたのかなあ。

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いっぽうパナソニックは、90周年だというので社史とか、CSRとかエコとかについても結構スペースを割いて広報している。思えば、 創業者の言った「社会の公器」はCSRという言葉をアメリカが発明するよりずっと先にやっている元祖CSRであるし、「水道哲学」 は今風にいえば、民間セクター主導の貧困削減そのものだ。僕にとってはトヨタと並んで尊敬する会社なので頑張ってほしいのだけれど、 IFAでのこのCSRメッセージは果たしてどう受け取られたのだろう。こういう実直な見せ方はある意味とてもこの会社らしいところ。

さて、今回ベルリンに来た主目的はコソボの仕事とは関係なくて、マッキンゼーのとある人に会うことだった。 初対面だけどぜんぜん初めてな気がしない、気持ちの良い議論。

<プロジェクト>

遡ること10年近く。1999年に「dialogue on leadership」 という奇妙なプロジェクトが、MITの研究者グループ(ピーター・センゲ、オットー・シャーマー、ジョセフ・ジャウォースキー) とマッキンゼーの間で始まった。21世紀の複雑な世界での知識創造、組織学習、そしてリーダーシップのあり方について探求する、 というのが目的。この分野を代表する25人へのインタビューが行われ、日本からは野中郁次郎が参加、ボストン近辺ではロナルド・ ハイフェッツ、ロバート・キーガン、トーマス・マローンなど、僕が強い影響をうけた人達が軒並み入っている。 その内容はぜんぶ公開されていて、 この後、ピーター・センゲは出現する未来を、 オットー・シャーマーはTheory Uを、ジョセフ・ジャウォースキーはシンクロニシティを書いて皆ベストセラーになったが、 これらのキーアイデアは皆、このプロジェクトでの対話に端を発しているように見える。

世間でほとんど知られていない割に、これは結構な貢献だと思う。特に、センゲやシャーマーが著書で言っていることの基点は、 サンタフェ研究所での複雑系経済の研究で知られるブライアン・アーサーとの対話(インタビュー記事) に拠る所が大きいのだけれど、彼は研究者になる前、最初にマッキンゼーで働いて重大な影響を受け、 世銀に移っていわゆる伝統的経済学のアプローチに失望し、バングラデシュの世銀ではマッキンゼーの仕事と同じことをやった、と言っている。 この過程の振り返りがTheory Uの入り口になっていたりする。

<出会い>

僕がこれらについて知ったのはボストンに来てからだ。とくに、卒業後はどうしようかなあ、と思っていた頃に、 このプロジェクトに深く関わったマッキンゼーの2人、ジョナサン・デイ(記事)とマイケル・ユング (記事) のインタビューを読んだことが、マッキンゼーに戻る決心の材料のひとつになった。クライアントとは誰のことか、 価値を提供するとはどういうことか、組織を診るにあたって我々にまだまったく見えていないこととは何か、それが見えるためにクライアント、 学者、実務家、その他の間に入ってマッキンゼーができることは何か、等々についてとても示唆に富んだ議論をしている (同僚諸氏は読むと面白いかもしれない)。

デイ氏はもうMcKにいないのだが、ユング氏はシニアなパートナーで、数年前まで社内の組織研究グループを率いてもいた。 これは自分がヨーロッパにいるうちに話を聞いておかないと、ということでメールを書く。即日、「ぜひ会おう。日程調整して」と簡潔な返信。 とはいえMcKのシニアな人は決まって異常に忙しいので、駄目もとでアシスタントに電話でお伺い。「えーと、 この日のこの時間ならミュンヘンで、ここだったらウィーンで、ここだったらベルリンで空いてるけどどうかしら?」 うっ・・・案の定、 毎日違う都市を飛び回っていらっしゃる。丁度コソボは休暇シーズンでどうせ仕事にならない時期だし、ベルリンで1時間もらうことに。

<テーマ>

ユング氏は哲学から経済学に転じて、実践を通じて答えのない問いを追求しつづける人。インタビューの中では 「マネジメントコンサルタントが出くわす実際的な問いは、どれも根底にある根本的な問いが形を変えて現れたものに過ぎない」といっている。 当時(90年代終盤)、彼のグループは組織経済学と社会学、深層心理学等々の「best thinkinjg」を組み合わせて、 そうした大きな問いへの答えを導こうとしていた。インタビューでは、文化人類学者Clifford Geertzのthick descriptionとか、経済学者John Robertsのcomplementarity、心理学者Mihalyi Csikszentmihalyiのdiscovery process、William Torbertのaction research、もっと遡るとCharles Peirceのabductive logic等、 修論の時に僕も文献をあちこち引っ張りながら出くわしたものを多分に引き合いに出している。

彼らの当時の問題意識は、組織の中に息づく膨大な社会的、心理的、 経済的コンテクストの中でいわゆるリエンジニアリングみたいなツールを使ってマネジメント層とかコンサルタントが触れることのできる領域がいかに限られているか、 ということ。特に物の生産から知識の生産に価値創出の重心が移ってからは、 個人や組織が環境から意味を読み取り行動にうつすための内的スキーマ(センゲがmental modelと呼び、 キーガンがmeaning-making systemと呼び、ユング氏がcognitive-emotional fieldと呼ぶもの) を理解し、そこに適切に介入することが、組織や社会の適応とか変革に際して、 いわゆる組織のハコとかインセンティブ構造とかをいじることよりはるかに大事なレバーになる。上記インタビューの中では、 「我々はいまだに工業時代のaction orientedなパラダイムに囚われすぎて、知識時代の主要な生産プロセス (interaction、reflection、dialogue)を操作できるだけの理解に達していない」といっていて、 個人と集団の歴史認識とかアイデンティティと経済活動の関係についての僕の問題意識は、こういう議論にも多分に影響を受けている。

デイ氏のインタビューの中で、プロセス改善とかコスト削減を専門にするマッキンゼー社内の同僚との会話の下りがあり、 これまた自分の職業観と共鳴する点だったので引用しておく。「コスト削減プログラムのテクニカルな側面は、 それ自体にはまったく何の価値もない・・・どうすればコストが減るのか、外部の専門家があれこれ言ったところでコストは減らないからだ」 「じゃあ、これを何百件と手がけてきた私は、人生無駄にしてきたというのか」「いや、そうは言っていない・・・我々は、 理想主義的でモチベーションの高い、柔軟でエネルギーに溢れた若手コンサルタントをクライアントに送り込んで、現場で共に飯を食い、 共に手を汚し、共に悩み苦しむ環境を作ってきた・・・『コスト削減』の周囲にそういう『遭遇』を演出するところから価値が生まれる」・・・ だからマッキンゼーはプロジェクトを売るのではなく、クライアントとの継続的「関係」から相互に学び、 たまにまとまった仕事が要るときがあればフィーをいただいて人を送り込むのだ、と。

ユング氏のインタビューの後半では、社会と企業の関係についても少々言及している。今日の大企業は大人たちの、 間接的には家族や社会全般の「socialization」に絶大な影響力を持っている。我々は経済的成功と引き換えに、 社会構造の価値を減じてしまう危険を冒しているのではないか? 政治や教育や家族といった他の社会の構成要素が、 この経済的圧力に対抗しうるだけの役割を果たしているようには思えない。・・・ 個人の幸せとか存在意義と経済パフォーマンスとの関係はトレードオフではなくむしろ補完的だと信じている。 これらの議論はまだ非常に抽象的だけれど、これを具体的に、現実におとしていくことが今の自分にとっての仕事の楽しみだ。

<ミーティング>

さて、そんな10年近く前の議論から、あなたの探求と実践はどう進歩したのか? 今現在何が起きていて、 近い問題意識をもつ自分にとって、貢献の仕方は何だろう? そういう問いで、1時間一本勝負のミーティングは始まった。曰く、 ここ数年の彼の仕事には公共セクターのクライアントが増えてきて、彼の問いは更に広がりつつも、答えに近づいているかというと全く心許ない。

人間の社会に対する理解がどう深まってきたか整理しよう・・・と、手元のメモ用紙にさらさらと1枚のチャートを描き始める。 やっぱりMcKの人。ジャーマン・チャート(文字の多い細かい図表)では決してなく、一部でアタカチャートと呼ばれるような(内輪話、 すいません)、目線高く本質を突く概念図。これが、歴史家が社会を描いてきたフレームワーク・・・と、大きな箱の隅に小さな箱。「社会」と 「ヒーロー」の関係だ。これが近世になると、「社会」と「order」の関係に変わる。軍事力とか宗教が社会を制した時代。 orderという言葉は面白くて、stateを意味しながらも、あるstateを創出・維持するための介入を意味してもいる。 ここでルネッサンスが起きて、この小さい箱は「management system」というものに変わる。学問分野や手法が多元化して、 マッキンゼーもこの小さな箱の中に生まれた。産業パラダイムの時代、まだ、ビジネスが社会の一部だった時代だ。

翻って今日はどうか・・・「ビジネス」という大きな雲の中に、小さな箱がたくさん浮いている図。小さな箱は、政治であり、 消費者文化であり、開発課題や安全保障等も含んだ国際関係であり、その他諸々の社会の構成要素。小さな箱は相互にみんなつながっていて、 それらを背後から形作るものは、グローバリゼーションと技術革新を背景に拡大を続ける経済活動にほかならない。 社会にとってのビジネスとは何か? このfragmentedなpolitical spaceで、 ビジネスは政府をreplaceすべき/し得るのか?

こんな時代に、我々の組織とリーダーシップに対する理解はどれほど深まったのか? ほかの学問分野、たとえば物理を想像してみよう。 今日の物理学を形作った重要な貢献をしたのは誰か? 簡単に2,3人の名前が思いつく。組織とリーダーシップについてはどうか?  欧州のトップCEO100人に聞いたら、センゲを知ってる人が10人、ハイフェッツを知ってる人が3人、キーガンを知ってる人が1人、 といったところか。知ってるだけじゃなく読んだことがあるか、ときけば、センゲ2人、ハイフェッツとキーガンはゼロだろう。 7Sは初期の努力として成功したが、5th Disciplineはまだまだ受け入れられたとはいいがたい。つまりframe of referenceがまだ無いということだ。相変わらず、学者やコンサルタントが口にする手法や理論は、組織が直面する膨大な 「context」のほんの小さな、小さな部分にしか到達できない。組織変革とか、より大規模な社会変革について語る言語すら、 我々はまだ持っていない・・・。

ミーティングを通じて、彼は僕をジュニアな同僚としてというよりは、知的興味を共有するひとりの人間として扱ってくれたように思う。 「You, as a young scholar,」といって、警告までしてくれる。他にもっと先の見通しがクリアで、 飯の種になる分野はいくらでもあるんだぞ。ほんとうにこの道でやっていく覚悟があるのか? どうしてこの道なのか? ・・・ 自分がマッキンゼーでの初期の仕事を通じてどのプロジェクトでも最後にぶちあたった課題、アメリカで3年勉強した内容、 国連や世銀やコソボのEUで見聞きしたり直面した問題は、ぜんぶここに行き着くと思う。もっと遡れば、 自分の父親の職業や政治思想にもきっと源流がある。・・・そんな話までしたら、ふむ、と頷いて、じゃあこの本とこの本をまず読みなさい、 また話そうじゃないか、との言葉。あっドバイとテレコンしなきゃ、というので、きっかり1時間でとりあえずミーティングは終わり。

*  *  *

最近、Grundsatzfragen、というドイツ語を知った。根源的な問い、という意味で、ドイツの大企業や政府機関には 「根源的な問い部門」という、ラインから離れて重要課題についてひたすら考えるトップ直属組織があるのだという。 日本の経企に近いのかもしれないが、アメリカの企業がドイツ企業を買収したりした時には、「何じゃこりゃ」といって、 そういう部門はすぐ廃止されちゃうのだとか。いかにも、ほとんどの哲学の原産地たるドイツらしい話。 マッキンゼーにGrundsatzfragen部があるとしたら、この人とその周辺なんだろうなあ。廃止されたりしないだろうな。

ビジネスの雲と消費者文化の箱、の図から、IFAでソニーがやっていた展示が即座に思い起こされる。そうだよなあ。そして、 よき地球市民たるパナソニックがやっていた展示との対比も。箱と箱の距離はあまりに遠くて、雲と箱の接面もどうにも漠としている。 うーん道は遠い。おみやげに買ったベルリンの壁の破片を眺めつつ、コソボへの帰途につく。

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コメント


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konpeさん初めまして。
こちらは、ミトロビッツァに3週間弱滞在している東大院&東外大の学生です。
人道支援NGOの一員として来ています。
検索していたら、こちらのブログにあたり、内容の面白さに大変惹かれ、また、参考になっています。
停電&断水の件は、こちらも日々身にしみて大変さを感じているので、面白く読ませていただきました。
可能であれば、ぜひお会いしたいな・・・とも思うのですが・・。なかなかお忙しいと存じますので、もしお時間ありそうなら、お願いできればとても嬉しいです。 

kumiko | URL | 2008-09-10(Wed)07:06 [編集]


いつもインスパイヤされています。
ティーチャーズカレッジのAdult Learning and Leadership専攻の勝股です。
世の中の大きな変化は一人ひとりの人間の中から創りだされるとものだと思っています。
だから組織開発やリーダーシップに可能性を感じて勉強しています。
センゲ、ハイフィッツ、キーガン僕も大好きで、今期はハイフィッツの授業にちらほらお邪魔する予定です。
マッキンゼーに戻られた後もブログを楽しみしてます。

勝股 | URL | 2008-09-20(Sat)15:45 [編集]


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