konpe's 夜の仕事記

民間セクター開発、BoP、Clean Tech

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コソボ背景2-ミトロヴィッツァという街

さて、今日は前回の続きで、 ミトロヴィッツァの紹介をすこし。

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ミトロヴィッツァはいろんな意味で、コソボの中でも「最悪」の場所(前向きにいうなら、仕事のし甲斐のある場所、というべきか)。 コソボの北端、もうすこし行くとセルビアとの国境、という場所にあって、街の真ん中を流れる川(イバル川)を隔てて北のセルビア系住人、 南のアルバニア系住人が分断された街。写真の真ん中に大きな橋がみえるが、ここの両端にはNATO軍が陣取り、鉄条網がしかれ、 人の行き来はそれなりにチェックされる。普段はいたって静かな街だが、たびたび衝突が起きてきたので、 国際機関勤務者でもすすんでここに来る人はあまりいない。

前回僕たちがケネディスクールの企画でここを訪れた1週間前、3月17日にも数十人が負傷する騒動があり、 国連職員が1人死亡している。僕の勤務先のICOミトロヴィッツァ事務所は北側にあったが、物理的に危険であるので退避して、 いまは南側にテンポラリーオフィスを構えている。

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KFOR(Kosovo Force)というのはコソボ駐在のNATO軍のことで、アメリカとヨーロッパ各国の混成部隊。 何かあるたびにこうやって出動して、お疲れ様です。

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その4年程前には、セルビア人がアルバニア人の子供をいじめて川に追いやっている、という報道が流れて、川を挟んだ大規模衝突に発展。 (セルビア側の報道では 「アルバニア人のテロリストが・・・」ということになっている) 

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国連出て行けー、と怒る人達。ちなみに、国連軍の戦車というのは白いのですねー。

さて、ミトロヴィッツァはどうしてこんなことになってしまっているのか? 経済、社会、政治各方面でいろんな事情があるのだけれど、 かいつまんで言うと以下。

<経済的には>

コソボ紛争の前、社会主義体制の下では、(今となっては想像もつかないが)コソボはユーゴスラビア屈指の工業地帯だった。 鉱工業がコソボのGDPの6-7割を占めていたといわれる。そして、その中核を担っていたのがミトロヴィッツァにある、Trepca (トレプチャ)というコンビナート。ここにある鉱山は鉛、亜鉛、金、銀、ボーキサイトその他を産出し、 精錬工場とか加工工場が川の南北にまたがって点在し(上の写真の右下のほうに見えるのもその1つ)、直接的には2万人程の雇用を生み、 間接的にも地域経済全体を支えていた。

内戦が終わり、2000年に国連の暫定統治がはじまると、Trepcaをはじめ国有企業はみな、民営化と再生を担うKTA (産業再生機構みたいなところ)の管理下に入った。Trepcaは、放漫経営で赤字垂れ流しになっていたのと、 環境汚染があまりにひどかったので閉鎖され、ここで働いていた人はほとんど職を失った。コソボ全体では失業率が5割ほど(!) ということになっているが、ミトロヴィッツァでは失業率は8割とされる(公式な統計はまだない)。 職にあぶれて生活に困る人がたくさんいる地域が不安定になるのは、当然といえば、当然。

<社会的には>

Trepca閉じたら経済破綻するのは分かっていたはずなのに、なんでまた・・・と最初は思っていたのだが、 この会社が垂れ流していた有害物質の汚染は、ほんとにひどい。

コソボに限らずバルカン地域全体で、紛争とか汚染とかあらゆる災難のあおりを一番くらうのは紛争当事者ではなく、RAE(ロマ、 アシュカリ、エジプシャン)と呼ばれる少数民族(2年前、マケドニアでやったリサイクル産業の仕事もこの人達向けだった) 。例に漏れず、いちばん汚染された地区はこのロマの居住区になっている。 ここに住むロマの子供たちの血中鉛濃度を測ってみたら65μg/dLあったとのこと。65といってもピンとこないのだが、 日本人小児の平均値は1.4、アメリカでの懸念濃度が10だそうで、65は計測機器の測定限界をゆうに超えていた。調査をしたWHOは 「歴史上例のない水準であり、ヨーロッパの衛生上もっとも憂慮すべき事態」とレポートしている。

汚染状況についての公開情報もろくにないのだが、コソボ環境省が調べたものをもらってきて読んでみると、 ミトロに置きっぱなしのやばいものリストみたいなのが載っている。トンネルの中に放射性物質の樽が3つとか、 工業地帯にカドミウムが1,000kgとか。カドミウムって、我が故郷、富山のイタイイタイ病の件ですでに響きが懐かしいんですが、 1,000kgって。そういや、コソボのNGOで働いてたケネディスクールの友人は、「なんか、長くいた友達が次々、 変な病気にかかるのよねー。だから私もう行きたくない」って言ってた。こわー。

そして、つい先々週のことだが、Trepcaの跡地に得体の知れないゴミを積んだダンプカーが2台、放置されているのが見つかった。 周りで鳥がたくさん死んでいて、どうやら普通のゴミではないというので、住民がデモを始める。「市役所は何をやっとんじゃー」 「災難を押し付けられるのはいつもミトロヴィッツァだ」・・・このときばかりは、アルバニア人とセルビア人の対立もない。 どこかの国のどこかの会社が、合法的に処理する金がないから、すでに一番汚染されてるこの国のこの街にもってきて、 置き去りにしていったのじゃないか、と憶測が飛ぶ。それがほんとか、僕には知る由もないが、 それくらい汚染がひどいという自覚が市民にもある、ということ(ちなみにICOはこういうことにも出て行って、 自治体と市民団体を仲裁したりしている)。

<政治的には>

環境汚染はともかくとして、この地域の鉱物資源はコソボもセルビアも欲しい (コソボにとっては鉱工業が経済復興に向けたほとんど唯一の頼みでもある)。それだけが理由ではないが、 コソボとセルビアの国境をどこに引くかというので、ミトロヴィッツァおよび以北の地域はずっと問題になってきた。

海に囲まれた日本と違って、陸続きのヨーロッパの国境はどれも多かれ少なかれ、歴史と人が決めた恣意的なもの。 ミトロヴィッツァ以北ではセルビア系が圧倒的多数の住民からすれば、自分たちはセルビアだと思っている。でも、民族で線引きをせず、 多民族国家を作るという思想で「国際社会(セルビア、ロシアを除く)」はミトロを含めたコソボを独立させた。 民族運動による独立の前例は作りたくない、でもコソボは特例だ、でもこれを民族で更に分けていったら再び地域が不安定化する (マケドニアのアルバニア人地域、ボスニアのアルバニア人地域も含めてアルバニア本土と統合する大アルバニア運動などに連鎖する)・・・ という一連の議論の帰結なのだが、当地のセルビア人はやっぱり納得しない。

そんな訳で、イバル川の北側の地域では今のところ、コソボ政府のコントロールは実質、利いていない。住民はコソボの選挙には参加せず、 セルビアの選挙に行く。地方選挙で選出された首長および自治体は、ベオグラードのセルビア政府から予算をもらって運営されている。警察、 裁判、病院、教育もしかり。法の支配が弱い地域ではお決まりの組織犯罪の話は絶えないし、北部とセルビアを隔てる「国境」 ではボーダーコントロールが実質ないので、いろんな「物資」が往来する。

ベオグラードでは、先の春の選挙でEU加盟を目指す新政権になったこともあり、対コソボ政策も徐々に現実路線に移してくるはず (コソボ承認がなければセルビアのEU加盟は認めない、と欧州各国が表明済み)。 セルビアの現地紙には3年程の時間軸でコソボ承認の可能性も、と書かれたりするが、今のところ公式にはコソボを承認しない以上、分割を主張する (ミトロ以北はやっぱりセルビアに、と言い張る)こともない。が、「実質的な分割(functional partition)」 を追求するのが新政府の政策といわれ、セルビア予算で引き続きミトロ北部の行政機能はまかなわれている。その背景には、 ミトロ北部の住民がコソボでのアルバニア系支配に耐えかねて大挙してセルビア本土に移ってくる場合の社会的コストよりはずっと安い、 という計算もあろう。また、先の選挙で負けて野党になった急進派(EUでなくロシア寄り、コソボ奪取を主張)の政治基盤は、 当然というべきかミトロヴィッツァ北部にあり、地方自治ではまだこの人達に主導権がある。

ビジネスっぽいたとえで言うと、コソボがセルビアからマネジメント・バイアウトを果たしたところ、 セルビアがコソボ北部に対して敵対的買収を着々と進めている、みたいな感じか。コソボの政府からみれば、 コソボ国内の北部地域でコソボの法に沿わないで勝手にやった選挙は違法だし自治体も違法で、 これらのコソボ政府傘下にない行政機関や社会インフラ(警察、病院等含む)は「パラレル・ストラクチャー」と呼ばれている。そして、 (詳しくは今度書くとして)このパラレルストラクチャーとどう付き合うか、というので「国際社会」も分断されている。また、 こんな状況を作ってしまったというのでKFORとか国連の暫定統治とかが非難されたりもする。

<政治経済・社会的には>

そんな訳で、いかにもPolitical Economyっぽく政治要因が経済要因に反映され、 ミトロ以北にまともな市場経済は存在しない。トレプチャ崩壊・大失業以降、 地域住民の収入に占めるいわゆる民間セクターの給与は8%しかない。コソボの予算から払われる公共セクターの給与が11%なのに対して、 ベオグラードから入ってくる公共セクターの給与は56%を占める(ちょっと古いが、ある機関が苦労して試算したもの。 残りは国際機関の現地スタッフ給与、社会保障など)。パラレルストラクチャーで支払われる給与は「ダブル・サラリー」と呼ばれている。 これは(コソボでなく)セルビア国内の給与水準の倍高い、という意味で、 コソボに留まることに対してセルビア政府がボーナスを払ってくれるのだった。

もちろん自治体などにそんな大量に職がある訳はなく、雇用吸収の大部分を担っているのは病院と大学だ。 それが全員病院スタッフだとか教員だとは限らない。たとえば、橋の北側には「ブリッジ・ウォッチャー」という悪名高い若者集団がいて、 アルバニア人が橋を渡って北部に入ろうとすると記録したり捕まえてやっつけたりする役目を担っているのだが、 彼らの人件費は病院から出ているといわれる。そして、想像に難くない通り、 病院の院長さんとか大学の理事さんといった人達がセルビア急進派の政治リーダーでもあり、ベオグラードからのお金を握っていたりする。 だれもが工場で働くより病院か大学で働きたいと思っている。そして採用人事を握る院長さんとか学長さんには門前列を成して、 いろんな人とお金と政治アジェンダが舞い込む。

*  *  *

さてさて、そんな北を経済発展させるには、というお題をもらってミトロヴィッツァにやってきた自分。 いやーTrepca再建は当分先だし南北の所有権絡みでぐちゃぐちゃになっちゃってるし、でもその前にふつうに考えれば、 こんな補助金漬けでしっぽり漬物になったインセンティブ構造が直らないと、民間セクター開発もクラスターもへったくれもない、 とも思うけれど、それを言い始めるとベオグラードの政策にどう影響するか、という外交課題になってしまう。ふつうの一般市民は、 そうは言ってもまったく暮らし向きが良くならない現状に満足のはずもなく、政治に飽き飽きして機会があれば働きたいと思っているはずだし、 ここまでマクロに安定した後は、民族間の壁がいちばん脆くなるのは経済機会が目前にある時、というのも世界の経験が証明している。でも、 商売を通じた和解の対話、とかしようにも、北に行けないのですよね・・・。

そういって手をこまねいている訳にも行かず、頭を捻る毎日ですが、一方で北に行きやすい他の機関がじつに色々な取り組みをしてもいる。 そして、ICOの立場から何かしら役に立てることもあるのでは、という気がし始めていたりもする。例によって前置きが長いですが、 次回こそはその辺の話を。

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